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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)23号 判決

東京都港区三田一丁目四番二八号

原告

矢崎総業株式会社

右代表者代表取締役

矢崎裕彦

東京都港区芝大門一丁目一二番一五号

原告

エヌオーケー株式会社

右代表者代表取締役

鶴正登

右両名訴訟代理人弁護士

秋吉稔弘

同弁理士

瀧野秀雄

有坂悍

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官 深沢亘

右指定代理人

長尾達也

有阪正昭

左村義弘

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告ら

「特許庁が昭和五八年審判第二一三七四号事件について平成元年一一月二四日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

二  被告

主文同旨の判決

第二  請求の原因

一  特許庁における手続の経緯

出願人 原告矢崎総業株式会社

出願日 昭和五四年七月一三日(昭和五四年実願第九五六三二号)

考案の名称 「コネクタ用の防水ゴム体」

拒絶査定 昭和五八年八月一六日

審判請求 昭和五八年一〇月一九日(昭和五八年審判第二一三七四号事件)

出願公告決定 昭和六三年五月一六日

出願公告 昭和六三年八月一二日(実公昭六三-三〇一四五号)

異議申立(六件) 昭和六三年一一月一〇日付及び同月一一日付

権利譲渡届出 平成元年九月一二日(原告矢崎総業株式会社から原告エヌオーケー株式会社へ、同日、実用新案登録を受ける権利の一部を譲渡。)

審判請求不成立審決 平成元年一一月二四日

二  本願考案の要旨

コネクタハウジングの電線接続側に嵌着され、かつ電線に対する挿通孔を有する防水体において、ゴムに対し一ないし三〇重量%の油を含有してなるゴム材料で形成され、コネクタハウジングとの嵌着面及び電線挿通孔内周面に複数の環状の突起が形成され、コネクタハウジングへの嵌着時において該複数の突起がコネクタハウジングとの嵌着面及び電線外周面によって変形されて前記油が滲出することを特徴とするコネクタ用の防水ゴム体。(別紙一参照。)

三  審決の理由の要点

1  本願考案の要旨は、前項記載のとおり(実用新案登録請求の範囲に同じ。)である。

2  これに対して、コネクタハウジングの電線接続側に嵌着され、かつ電線に対する挿通孔を有する防水体において、ゴム材料で形成され、コネクタハウジングとの嵌着面及び挿通孔内周面に複数の環状の突起が形成されたコネクタ用の防水ゴム体は本願の出願前に周知(必要であれば、実開昭五二-一二〇三九五号公報、実開昭五一-八一九二号公報及び特開昭五〇-七〇八八六号公報(以下、これらを「周知例」という。)参照。)であり、また、特公昭五一-八一九二号公報(以下、「引用例」という。別紙二参照。)には、電気ケーブルの接続部、端末部或いは機械直結部等におけるケーブル挿入部において、ブチルゴムからなるストレスコーンの前記ブチルゴムに対して五ないし一〇重量%程度のシリコン油を混入し、ストレスコーンのケーブル線心挿入面に過剰の油状物が表面浸出して油膜が形成されるようにした技術手段が記載されている。

3  本願考案と前記周知のものとを比べてみると、両者は「コネクタハウジングの電線接続側に嵌着され、かつ電線に対する挿通孔を有する防水体において、ゴム材料で形成され、コネクタハウジングとの嵌着面及び電線挿通孔内周面に複数の環状の突起が形成されたコネクタ用の防水ゴム体」を構成した点において一致しており、本願考案のコネクタ用の防水ゴム体が、そのゴムに対し一ないし三〇重量%の油を含有してなるゴム材料で形成され、その突起がコネクタハウジングへの嵌着時においてコネクタハウジングとの嵌着面及び電線外周面によって変形されて前記油が滲出するように構成されているのに対して、前記周知のものはそのような構成を備えていない点で相違している。

4  右相違点を検討すると、本願考案と同じ電線接続等の技術分野において、ストレスコーンをゴムに対し五ないし一〇重量%の油を含有してなるゴム材料で形成し、このストレスコーンを本願考案と同じ静態構造部分に用いる手段として、右ストレスコーンのケーブル線心挿入孔にケーブルを挿入し、このケーブル上にストレスコーンのゴムに含まれている油を浸出させるようにすることは、前記引用例に記載のとおり公知であり、更に、油含有ゴムをシール等に用いることも本願出願前に周知の技術手段であるから、前記周知のコネクタ用の防水ゴム体に右引用例記載の公知の技術手段ないし前記の油含有ゴムをシール等に用いる周知の技術的手段を適用することにより、本願考案の右相違点のごとく構成することは当業者において極めて容易のことと認める。

そして、本願考案の効果も、前記各周知のもの及び前記引用例に記載のものから当業者であれば予測できる程度のものである。

5  したがって、本願考案は、前記各周知のもの及び前記引用例に記載のものに基づいて当業者が極めて容易に考案することができたものであるから、実用新案法三条二項の規定により実用新案登録を受けることができない。

四  審決の取消事由

審決の理由の要点1ないし3は認める。同4は、油含有ゴムをシール等に用いることが本願出願前に周知の技術手段であることは認め(ただし、同技術手段が本願考案の属する技術分野においても周知であることまでも認める趣旨ではない。)、その余は争う。同5は争う。

審決は、本願考案と引用例記載の考案及び周知技術手段との技術分野の相違を看過し、相違点に対する判断を誤った結果、本願考案の進歩性を否定したものであって、違法として取り消されるべきである。

1  本願考案と引用例記載の考案との技術分野の相違を看過したことによる相違点に対する判断の誤り(取消事由一)

(一) 産業上の利用分野の相違

引用例に記載されているストレスコーンは、電気ケーブルの外部遮蔽層(外部導電層)切断点に発生する電気的ストレスを緩和させるためのケーブル挿入部であり、ケーブル線心とそのストレスコーンとの間に空隙が生じた場合にコロナ放電が発生するような高電圧が印加される電気ケーブル接続(例えば電力ケーブル接続)の分野であるのに対し、本願発明の防水ゴム体は、コネクタハウジングとの嵌着面及び電線挿通孔内周面等における防水性が重視され、コロナ放電の発生が問題とならない低電圧で使用されるコネクタ(例えば自動車用コネクタ)の分野であり、両者は異なる物品であってその産業上の利用分野を異にするものである。

なお、ストレスコーンにおけるケーブル線心間の密接性はストレスコーンとケーブル線心の間に空隙が発生するのでそれを防止するためのものであり、防水等のシーリングをその主目的とするものではないそして、ストレスコーンの密接性の構成は、後述するとおり、防水のための構成とは相違する。したがって、電気的ストレスの緩和を目的とするストレスコーンが属する技術分野と防水等の密封性を目的とするシーリング材が属する技術分野との間に技術的な親近性があるとは認められないので、本願考案と引用例記載の考案が属する技術分野を、単に広くシーリング材の技術分野なるものを観念し、本願考案も引用例記載の考案も共にこの技術分野に属するものであるとすることは失当である。

また、国際分類等の特許分類は、審査に当たってその調査範囲を決めるための基準にすぎないのであって、特許法二九条二項の技術分野の同一性を定めることを目的としたものではないうえ、仮に、国際分類等の特許分類の内容を考慮しても、本願考案と引用例記載の考案の属する技術分野の間に親近性や共通性を認めることはできない。

(二) 目的(解決課題)の相違

引用例記載の考案の技術分野においては、ケーブル線心に高電圧が印加されるためにケーブル線心とストレスコーンとの間に生じた空隙にコロナ放電が発生するのを防止することが重要な解決課題となり、その考案の目的となっているのに対し、本願考案の技術分野においては、コネクタの電線にコロナ放電が発生するような高電圧は印加されることはないので、コロナ放電の発生を防止することはその解決課題の対象とはならず、コネクタの防水性や密封性が解決課題の対象となり、本願考案の目的にもなっているものであり、両者は考案の解決課題及び考案の目的を異にするものである。

そして、ストレスコーンの本来的な目的(課題)は、電気ケーブルの外部遮蔽層(外部電導層)切断点に発生する電気的ストレスを緩和することであり、シーリング材として機能することはその本来的な目的(課題)にはなっていない。シーリング材として機能することがストレスコーンの本来的な目的(課題)にはなっていないことは、シーリング材の分類の中にストレスコーンが含まれていない(甲第一二号証の三九頁の表1参照)ことからも明らかである。

これに対して、本願考案においては、コネクタの電線にコロナ放電が発生するような高電圧が印加されることはないので、コロナ放電の発生を防止することはその目的(課題)の対象とはならず、他方、本願明細書から明らかなように、本願考案は、コネクタの防水性や密封性とともに、コネクタハウジングへの嵌着や電線の引出しの容易等の作業性がその目的(課題)の対象となっている。

(三) 構成の相違

引用例記載の考案においては、空隙におけるコロナ放電の発生が問題になることから、電気ケーブル線心とストレスコーンとの間に空隙が生じない構成となるように考慮されているのに対し、本願考案の技術分野においてはコロナ放電の発生は問題にならずコネクタの防水性や密封性等の特性が問題になることから、良好な防水性や密封性が得られる構成となるように考慮されている。すなわち、本願考案は、防水ゴム体に環状の突起を設けて良好な防水性や密封性が得られるようにしており、この突起によって、コネクタの電線と防水ゴム体との間に空隙が生じても防水性や密封性等の特性が確保されている限り、構成上なんら問題になるものではなく、本願考案の防水ゴム体と引用例記載の考案のケーブル挿入部とは、その構成を異にするものである。

なお、被告は、後記のとおり、防水ゴム体に環状突起を設ける構成は本願考案と周知のものとの相違点の構成ではないから、引用例記載の考案が環状突起を備えていないことは相違点の判断において何ら問題になることではない旨主張するが、審決の認定に係る前記相違点は、本願考案は、コネクタ用の防水ゴム体が油含有ゴム材料で形成され、その突起がコネクタハウジングへの嵌着時においてコネクタハウジングの嵌着面及び電線外周面によって形成されて油が滲出するように構成されているのに対し、周知のものはそのような構成を備えていない点にあるのであるから、この相違点の容易推考性の判断のためには、引用例記載の考案における油含有ゴム体は環状突起を設けた構成のもの又はそれを示唆するものであることが必要である。

(四) 作用効果の相違

(1) 引用例記載の考案において、そのストレスコーンのケーブル線心挿入面に油が浸出するのは、ストレスコーンに油が過剰に混入されることによって生ずるものであり、ストレスコーンが変形を受けることによって浸出することを要件とするものではない。また、ストレスコーンの表面に油が浸出する時期は、ケーブル線心挿入時に直ちに浸出するのではなく、ストレスコーンにケーブル線心挿入後ある程度の時を経てからである。また、形成された油膜の機能は、もっぱら空隙を充填してコロナ放電発生を防止することにある。

これに対して、本願考案においては、油を含有する複数の突起がコネクタハウジングの嵌着面及び電線外周面によって変形されることにより、コネクタハウジングとの嵌着面及び電線挿通孔内周面に油が滲出する構成になっているから、コネクタハウジングとの嵌着面及び電線挿通孔内周面に油が滲出する時期は、コネクタハウジングへの嵌着により突起が変形されるときである。また、形成された油膜の機能は専らコネクタの防水性や作業性等を向上させることにある。

このように、本願考案と引用例記載の考案とは、その油の浸出メカニズム及びその機能において相違するものであって、両者はその技術思想を全く異にするものである。

(2) 本願考案は、油膜シールによる防水効果が高く、コネクタハウジングへの嵌着が容易であるとともに電線の引出しも容易になし得られる特徴を有するものであるのに対し、引用例記載の考案は、ケーブル挿入部においてケーブル線心とストレスコーンとの間のヒートサイクルによって空隙が発生しても、その空隙内を油状物で充填することができるので該部でのコロナの発生を確実に防止することができるものであり、両者は作用効果を全く異にするものである。

(五) 以上のとおり、本願考案と引用例記載の考案とは、その産業上の利用分野、目的すなわち対象とする解決課題、構成、技術思想及び作用効果のいずれも異にするものであるから、両者はその属する技術分野を異にするものであり、両者の間に技術上の親近性はないといわねばならない。

しかるに、審決が、相違点の判断に当たり、「本願考案と同じ電線接続等の技術分野において、ストレスコーンをゴムに対し五ないし一〇重量%の油を含有してなるゴム材料で形成し、このストレスコーンを本願考案と同じ静態構造部分に用いる手段として、右ストレスコーンのケーブル線心挿入孔にケーブルを挿入し、このケーブル上にストレスコーンのゴムに含まれている油を浸出させるようにすることは、前記引用例に記載のとおり公知であり、」と認定しているのは、両者の属する技術分野が同じであると誤認したことによるものであり、この誤りは審決の結論に影響を及ぼすものである。

2  周知技術手段の適用による判断の誤り(取消事由二)いて極めて容易のことと認める。」と判断する。

しかしながら、油含有ゴムをシール等に用いることは本願出願前に周知の技術的手段ではあるが、右技術的手段は本願考案の属する技術分野においても周知であるものではなく、また、引用例記載の考案も本願考案とは技術分野が異なるものであることは前述のとおりであるから、引用例記載の考案又は右周知の技術的手段をコネクタ用の防水ゴム体に適用すること、更に、引用例記載の考案に右周知の技術的手段を適用することにより前記相違点のように構成すること、すなわち、油を含有してなるゴム材料で形成されたコネクタ用の防水ゴム体の突起がコネクタハウジングへの嵌着時においてコネクタハウジングとの嵌着面及び電線外周面によって変形されて前記油が滲出するように構成することは、当業者にとって極めて容易なこととすることはできない。

したがって、審決の本願考案と周知のものとの相違点に関する前記判断も、合理的な根拠を欠くものであって、失当であるといわなければならない。

なお、被告は、審決に引用された引用例は念のために示したにすぎず、本願考案は各周知のものに基づいて当業者が極めて容易に想到し得た旨主張するが、同主張は審決が判断していない事項を主張するものであり、もしくは審決が示している本願考案の拒絶理由を実質的に変更するものであるから、審決取消訴訟においては許されない主張である。

第三  請求の原因に対する認否及び被告の主張

一  請求の原因一ないし三は認める。同四は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決を取り消すべき違法はない。

二1  取消事由一について

(一) 産業上の利用分野

本願考案と引用例記載の考案とは、いずれもシーリング材の技術分野に属しており、そのうえ、産業上の技術分野について、両者はシーリング材が使用される広い分野の中で、電気分野のそれも電線接続等の技術分野のレベルで共通しているから、相違点についての判断において引用例を引用したことに誤りはなく、本願考案と引用例記載の考案との産業上の利用分野のそれもコネクタ用防水ゴム体であるかケーブル挿入体であるかの議論は必須ではない。

なお、本願考案と引用例記載の考案とが同じ電線接続等の技術分野のものであることについては、国際分類の上で、本願考案の技術分野(HO1R電線接続器、集電装置)についてはサブクラスのタイトルにおいて、引用例の技術分野(HO2G電線、ケーブルまたは補助装置)を参照分類としていることからも明らかなように、コネクタとケーブルとは相互に密接不可分に関連しているものであることからもいえるのである。

(二) 目的(解決課題)

コロナ放電は、〈1〉湿気の侵入、〈2〉ボイド、間隙の発生、〈3〉異常電界、〈4〉経年、これらの状態が発生すると、ボイド放電、その他により発生するものであるが、引用例記載の考案は、〈2〉ボイド、間隙の発生を防止することによってコロナ放電の発生を確実に防止し得るようにしたものである。

すなわち、引用例には「ケーブルとストレスコーン間の密接性を補いヒートサイクルによるコロナの発生を防止し得るようにしたケーブル挿入部を提供することを目的とし」と記載されており(二欄七行ないし一一行)、ケーブル線心とストレスコーン(油含有ゴム)との間を密接させ、密接性の低下による空隙が生じないようにし、その結果としてコロナの発生を確実に防止するものである。具体的には、五ないし一〇重量%程度のシリコン油を混入したブチルゴムからなるストレスコーンを用いることにより、ストレスコーンのケーブル線心挿入面に過剰の油状物が表面浸出して油膜が形成され、しかも、仮にストレスコーンとケーブル線心との間に間隙が生じてもこの間隙は前記油状物によって充填され、ケーブルとストレスコーン間の密接性が常に補われるものである。すなわち、引用例記載の考案も要するに密接性の向上を図るものである。そして、本願考案がコネクタ用の防水ゴム体に対し一ないし三〇重量%の油を含有してなるゴム材料で形成したのは、油膜シールによる、つまり電線に対する防水ゴム体の密封性ないし密接性の強化を図ろうとするものであるから、結局、両者は密封性ないし密接性の向上という点でその目的は一致している。

(三) 構成

防水ゴム体に環状突起を設け良好な防水性や密封性が得られるようにしたコネクタ用の防水ゴム体が周知であることは争いがなく、この点の本願考案の構成は周知のものとの一致点の構成であり相違点の構成ではないから、引用例記載の考案が環状突起を備えていないことは相違点の判断において何ら問題になることではない。

なお、念のため右相違点の防水ゴム体の構成についてみるに、ゴム体の材料が油含有ゴムであるという構成は、材料その物の摩擦係数を改善する、すなわち油を滲出させて自己潤滑性をもたせることによるゴム体の摩擦抵抗を小さくするための構成である(本願明細書三欄一五行)。そして、この場合、ゴム体はシールのことであり、その使用には必ず多少の変形を伴うから、変形により油が滲出するように構成することとはゴム体のゴム材料に自己潤滑性を与えることのできる程度の量の油を含有させることと同じ意味であり、それを越える意味はない。

(四) 作用効果

本願考案の油膜シールによる、防水効果が高い、嵌着が容易、電線の引出しも容易という効果は、本願出願前それぞれ周知の環状突起及び油含有ゴムに基づく各自明の効果の総和以外の何ものでもない。

なお、原告は作用効果に関する主張において油が滲出する構成につて述べるが、引用例記載の考案もストレスコーンがバネで押圧される構成が採用されており、変形により油が滲出する構成をとるものであることはいうまでもない。

2  取消事由二についてい

本願考案と周知例とは共にコネクタ用の防水ゴム体である。つまり、本願考案と周知例とは産業上の利用分野が全く同じである。

本願考案と周知例に示された周知のものとの相違点についての判断において引用されたのは、引用例と周知の技術的手段(油含有ゴムをシール等に用いること)とであり、油含有ゴムがシーリング材として使用されていることは周知のことであって、シーリング材が広い分野で使用されていることを考慮すると、その周知技術だけで充分であったのであるが、引用例はそのシーリング材としての使用が電線接続の分野でも例外でないことを念のために示したにすぎないのである。

このような、引用例の引用の趣旨だけからでも、該相違点の内容を見れば尚更のこと、本願考案と引用例記載の考案との産業上野利用分野のそれもコネクタ用防水ゴム体であるかケーブル挿入体であるかのレベルでの相違は、審決がした相違点の判断に影響を与えるとはいえない。すなわち、本願考案と周知のものとの相違点は、コネクタ用の防水ゴム体が、そのゴムに対し一ないし三〇重量%の油を含有してなるゴム材料で形成され、その突起がコネクタハウジングへの嵌着時においてコネクタハウジングとの嵌着面及び電線外周面によって変形されて前記油が滲出するように構成されているかどうかの点である。これは防水ゴム体の構成についてのものであるから、電気、車両、船舶、自動車、航空機、各種装置等の広い分野にわたり使用されているシーリング材に関するものであるといえる。そして、シーリング材は、その使用目的についても、それらが防水材料から、気密、防塵、防振、熱絶縁及び電気絶縁材料に至るまで広範囲に及んでいることがこの分野において広く知られているところであって、放電防止等の絶縁目的であるか又は防水目的であるかはシーリング材の通常の使用範囲に属する事項にすぎない。したがって、右相違点の判断においては、分野についていうならば、まず、シーリング材の技術分野について、そして、該シーリング材が使用される産業分野については必要に応じ適宜考慮されるべきであることばみやすいところである。

第四  証拠関係

本件記録中の書証目録の記載を引用する。

理由

一  請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨、審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

二  本願考案の概要

成立に争いのない甲第二、第三号証(本願考案の公告公報及び手続補正書。以下、これらを総称して「本願公報」という。)によれば、本願考案は防水コネクタにおいて特にコネクタハウジングの電線接続側に嵌着されるコネクタ用の防水ゴム体に関するものであること、防水コネクタは、一般に雌、雄コネクタハウジングを〇リング等パッキングを介して嵌合し、各コネクタハウジングの電線接続側に防水栓を嵌着し該栓に設けた電線挿通孔から端子金具に接続された電線を引き出す構成を有し、各コネクタハウジングの嵌合面及び電線接続端側の防水シールを行っているものであるところ、このような防水栓は、従来天然ゴムやSBR、CR、NBR等の合成ゴムで製作されるが、その材質上摩擦係数が大きいためコネクタハウジングへの嵌着や電線の引入れ引出しに際し大きな力を必要とし、作業がやり難い欠点、また、電線の絶縁被覆部が狭い電線挿通孔によって締め付けられ、長時間使用中にくびれが生じ、そのために電線の引抜きが一層困難になることが多かった欠点、更に、防水コネクタは、例えば自動車のエンジンルームのように温度変化が激しく雨水や水跳ね等により高温多湿になりやすい過酷な条件で使用する場合が多く、熱、水蒸気等により劣化し易く寿命が短いという欠点があったのに対し、本願考案は、これらの点に着目し、防水効果が高く、しかも、雌、雄コネクタハウジングへの嵌着のみならず電線の引出しが容易なコネクタ用の防水ゴム体を提供することを目的とし、前記の本願考案の構成を採用することにより、油膜シールによる防水効果が高く、コネクタハウジングへの嵌着が容易であると共に電線の引出しも容易になすことができる特徴を有するコネクタ用の防水ゴム体を提供し得るものであることが認められる。

三  取消事由に対する判断

1  次の各事実については当事者間に争いがない。

〈1〉  コネクタハウジングの電線接続側に嵌着され、かつ電線に対する挿通孔を有する防水体において、ゴム材料で形成され、コネクタハウジングとの嵌着面及び挿通孔内周面に複数の環状の突起が形成されたコネクタ用の防水ゴム体が本願の出願前に周知であること。

〈2〉  引用例には、電気ケーブルの接続部、端末部或いは機械直結部等におけるケーブル挿入部において、ブチルゴムからなるストレスコーンの前記ブチルゴムに対して五ないし一〇重量%程度のシリコン油を混入し、ストレスコーンのケーブル線心挿入面に過剰の油状物が表面浸出して油膜が形成されるようにした技術手段が記載されていること。

〈3〉本願考案と右〈1〉記載の周知のものとの一致点及び相違点が審決の認定のとおりであること。

〈4〉油含有ゴムをシール等に用いることが本願出願前に周知の技術手段であること(ただし、同技術手段が本願考案の属する技術分野においても周知であるか否かについては争いがある。)。

2  取消事由一に対する判断

(一)  産業上の利用分野の相違に関する原告らの主張について

本願考案が、コネクタハウジングの電線接続側に嵌着されるコネクタ用の防水ゴム体であり、したがって、電線接続部の構造に係る考案であることは、前記本願考案の要旨及び前認定の本願考案の概要から明らかである。一方、引用例に関する前記載によれば、引用例記載の考案も電線接続部の構造に係る考案であると認められ、両者は産業上の利用分野を同じくするものであると認めることができる。

原告らは、同じ電線でも、本願考案は低電圧の分野であるのに対し、引用例記載の考案は高電圧の分野であるから、両者は産業上の利用分野が異なる旨主張するが、本願考案が低電圧のものに限定されるものでないことは前記本願考案の要旨から明らかであるうえ、前掲甲第二、第三号証によるも、本願明細書中の考案の詳細な説明中にも本願考案が低電圧のものに限定される旨の記載は認められない(なお、前認定の本願考案の概要によれば、本願明細書中には、従来の防水コネクタの欠点を述べる中で、「例えば自動車のエンジンルームのように……」として低電圧の電線を対象としたものであることを窺わせるような記載があることが認められるが、従来例の欠点を述べる同記載の存在をもって、本願考案が低電圧のものに限定されるとまでは解されない。)。また、仮に両考案が扱う電圧の高低の差異があるとしても、両者は共に電線接続部の構成に係る考案である点で共通していることからすれば、低圧の電線についての通常の知識を有する者にとって引用例記載の考案に示された技術は応用又は転用し得る技術であると認められるから、原告らの右主張は採用できない。

更に、原告らは、本願考案は防水を目的とするものであるのに対し、引用例記載の考案はコロナ放電の発生防止を目的とするものであるから異なる旨主張するが、この点は、後に判断するとおり、引用例記載の考案もまた防水の目的及び効果を有することが自明であるから、この点で両者が相違するものと認めることはできない。

(二)  目的(解決課題)の相違に関する原告らの主張について

(1) 前認定の本願考案の概要によれば、本願考案の目的(解決課題)が防水効果の向上にあることは明らかである。

一方、成立に争いのない甲第四号証(引用例)によれば、引用例には「本発明はこの種ケーブル挿入部において、ケーブルとストレスコーン間の密着性を補いヒートサイクルによるコロナ放電の発生を確実に防止し得るようにしたケーブル挿入部を提供することを目的として為されたもので、」との記載(二欄七行ないし一一行)のあることが認められ、同記載によれば、引用例記載の考案の目的(解決課題)はケーブル線心とストレスコーンとの間に生じた空隙にコロナ放電が発生するのを防止することにあると認められる。また、右甲第四号証によれば、引用例には、その目的達成の手段に関して「具体的には、たとえばストレスコレン4をブチルゴムで構成するときには、ブチルゴム一〇〇重量当り五ないし一〇重量部程度のシリコン油を混入することにより達成される。而してストレスコーン4のケーブル線心挿入孔内面にはストレスコーン4構成材料中の過剰の油状物14が表面浸出して油膜が形成されており、而もこの油膜はケーブル導体11への通電に伴なうストレスコーン4の加熱の作用によってその分子活動が更に活発化を呈し、その結果更に促進されて多量に出てくることから、仮りにヒートサイクルが作用してストレスコーン4とケーブル線心3との間に隙間が生じてもこの隙間は油状物14によって充填されることになり、従ってコロナ放電を防止することができる。」との記載(三欄八行ないし二一行)があることが認められ、この記載によれば、引用例記載の考案は、ストレスコーンとケーブル線心との間の隙間を油状物が充填されることによって両者の密接性を向上させ、コロナ放電の防止を図ろうとするものであることが合わせて認められる。このように、引用例記載の考案は、コロナ放電発生防止のためであるとはいえ、その採用する具体的手段が油の浸出により、油をストレスコーンとケーブル線心の隙間に充填させて両者の密接性ないし密封性を向上させることにある以上、同手段は同時にストレスコーンとケーブル線心間の気密性や水密性をも向上させ防水効果を高めるものであることは当業者ならずとも直ちに推察し得る事柄である。因みに、防水ということは電気設備一般にとって重要な事項であり、特に、成立に争いのない乙第六号証(「電力ケーブル技術ハンドブック」・株式会社電気書院昭和五三年五月三〇日第二版発行)(六〇八頁下から五行ないし六〇九頁四行)によれば、ケーブルにおいて湿気の侵入は、コロナ放電を発生させる原因となり得るものとして、好ましくないものであることが本願出願前において当業者における周知の事項であると認められるから、引用例記載の考案において採用した手段がコロナ放電発生防止のための防湿・防水をも目的とした気密性、水密性保持にあり、同時に、そのことにより防湿・防水効果自体の向上をももたらすものであることは当業者にとって自明のことであると認めるのが相当である。

このように、引用例記載の考案が防水効果の向上にも寄与するものであることが引用例の記載から示唆されるものである以上、本願考案と引用例記載の考案とは右の点において目的(解決課題)を異にするものと解することはできない。

(2) なお、いずれも成立に争いのない甲第九ないし第一一号証(「電力ケーブル技術ハンドブック」・株式会社電気書院昭和四九年六月一〇日発行、日本電力ケーブル付属品工業会「会報」一九八七年三月号(三九号)、同一九八九年四月号(四六号)によれば、ストレスコーンは電気ケーブルの外部遮蔽層(外部電導層)切断点に発生する電気的ストレスを緩和するものであることが認められ、また、成立に争いのない甲第一二号証(「化学工学」三五巻三号・社団法人化学工学協会昭和四六年三月五日発行)によれば、同号証三九頁の表1の密封装置の分類中にはストレスコーンが記載されていないことが認められる。

しかしながら、前記の引用例の記載内容によれば、引用例記載の考案におけるストレスコーンは、前掲甲第九ないし第一一号証に記載された普通のゴム製のストレスコーンと異なり、ゴム製のストレスコーン中にシリコン油等の油状物を過剰に混入せしめたものであり、これによってケーブル線心とストレスコレンとの間の隙間を表面浸出した油状物で充填させて空隙ができるのを防ぎ、両者の密接性、水密性を確保する効果を有するものであることは、既に説示したとおりであるから、前掲甲号各証にストレスコーンが密封装置として記載されていないからといって、前記(1)に述べた本願考案と引用例記載の考案における目的の共通性を否定する根拠となるものではない。

(3) また、原告らは本願考案においてはコロナ放電の発生を防止することはその目的(課題)の対象とはならない旨主張するが、本願考案の進歩性の有無を判断するに当っては、本願考案の目的(課題)が引用例に開示ないし示唆されていれば足りるものであって、その逆は必ずしも必要なものではないから、原告らの右主張は失当である。

(4) 更に、本願考案は、コネクタの防水性や密封性とともに、コネクタハウジングへの嵌着や電線の引出しの容易等の作業性がその目的(課題)の対象となっているとの原告の主張について検討する。

前認定の本願考案の概要によれば、本願考案はコネクタハウジングへの嵌着や電線の引出しの容易性の向上をも考案の目的(課題)とするものであると認められるところ、右本願考案の概要及び前掲甲第二、第三号証によって認められる本願公報の「ゴム材料に含有される油の量は、前記ゴムに対し、一ないし三〇重量%、好ましくは二ないし一〇重量%である。一重量%未満ではゴム材料の摩擦係数等が改善されず所期の効果を達成できず、」との記載(甲第二号証三欄一二行ないし一六行、甲第三号証下から六行ないし同四行)からみて、本願考案におけるコネクタハウジングへの嵌着や電線の引出しの容易性の向上はゴムに含有された油によってもたらされる油の潤滑性の作用に他ならないものであると認められる。

一方、油状物は潤滑性を有することが一般に良く知られているから、引用例記載の考案においても油状物がゴム体から浸出することにより潤滑性を生ずることは自明の事柄であるといえる。因みに、前掲甲第一一号証によれば、同号証には「ケーブルの外径とストレスコーンの内径との間の径差が大きすぎると、ケーブル絶縁体及びゴム成型品の内面に潤滑油(シリコングリース)を塗布して挿入しても、ゴム成型品の挿入に非常に大きな力を必要とすることになる」旨の記載(六頁左欄一五行ないし二一行)があることが認められ、同記載によれば、一般的なストレスコーンにおいても、ストレスコーンにケーブル絶縁体を挿入する際に、油の潤滑作用を利用することが一般的であることが認められる。

以上によれば、引用例には必ずしも明記されてはいないが、引用例記載の考案におけるストレスコーンは、油含有ゴム体であることから、油状物の浸出により自己潤滑性を有することは自明であり、また、一般のストレスコーンにおいてもケーブル線心の挿入に際しては油の潤滑作用を利用することが一般的であることを考慮すれば、引用例記載の考案においても、ケーブル線心の挿入のための油状物による潤滑性の向上も当然に意図しているものと認めることができ、この点においても、本願考案と引用例記載の考案との駐的(技術課題)の相違は認められない。

(三)  構成の相違に関する原告らの主張について

防水ゴム体に環状突起を設け良好な防水性や密封性が得られるようにしたコネクタ用の防水ゴム体が周知であることは争いがなく、この点の本願考案の構成は周知のものとの一致点の構成であり相違点の構成ではないから、引用例記載の考案が環状突起を備えていないこと自体は相違点の判断において何ら問題になることではない。

そして、前掲甲第四号証によれば、引用例には「7は絶縁ブロツク1のケーブル挿入口端部分ヘボルト8によって固着したフランジ状のバネ受金具、9はストレスコーン4における遮蔽体6の外側に配置した押金具であり、この押金具9とバネ受金具7との間に圧縮バネ10を架設し、これによってストレスコーン4をケーブル3と絶縁ブロック1の奥内壁へ密接するようにしてある。」との記載(二欄二九行ないし三五行)があることが認められ、同記載及び引用例の第1図(別紙二)からみると、引用例記載の考案におけるストレスコーンは、バネで押される構造になっているから、油含有ゴム体であるストレスコーンが押圧されれば弾性を有するゴム体の圧縮変形によって油が滲出することは明らかである。

原告らは、審決が相違点の認定における「……その突起が……」という点を捉えて、突起の存在が引用例において示唆されていなければならない旨主張するが、審決が「その突起」については周知のものとの一致点として認定していることは前判示のとおりであり、審決が相違点の認定において述べたかったことは油を含有するゴム材料で形成される防水ゴム体が「変形されて油が滲出する構成」であることは、前記の審決の理由の要点全体から明白である。そして、この構成、すなわち油を含有するゴム材料で形成されるストレスコーンが「圧力変形により油が滲出する」点は、右のとおり、引用例に示唆されている事項であり、これによって引用例のものとの相違点が充足されるものであるということができるものである。

(四)  作用効果の相違に関する原告らの主張について

原告らは、本願考案はゴム体の突起の変形によって油が滲出するのに対し、引用例記載の考案における油の浸出は油がストレスコーンに過剰に混入されることによって生ずるものであり、両者は別異の作用である旨主張する。しかしながら、前記の本願考案及び前認定の本願公報の「ゴム材料に含有される油の量は、前記ゴムに対し、一ないし三〇重量%、好ましくは二ないし一〇重量%である。」との記載、審決の認定に係る引用例の「ストレスコーンの前記ブチルゴムに対して五ないし一〇重量%程度のシリコン油を混入し、」との記載からみて、本願考案の引用例記載の考案とでは、ゴム材料に含有される油の量は重複しており、実質的に異なるものではないと認められるうえ、引用例記載の考案におけるストレスコーンは、バネで押される構造になっているため、過剰の油状物が表面に浸出するだけでなく、押圧による圧縮変形によっても油が滲出するものと認められることは前判示のとおりであるから、両者の油の滲出の作用には原告らの主張するような差異は認められない。

また、原告らの主張する油の浸出する時期に関しても、引用例記載の考案におけるストレスコーンは、バネで押される構造になっていて、油含有ゴム体であるストレスコーンが押圧されれば弾性を有するゴム体の圧縮変形によって油が滲出することは前判示のとおりであるところ、該ストレスコーンはケーブル挿入口へ挿入した最初からバネで押圧されるものであることは前掲甲第四号証から明らかであるから、引用例記載の考案においても、ケーブル線心挿入時に既に該ストレスコーン構成材料中の過剰の油状物がバネの押圧による圧縮変形によって表面浸出して油膜を形成しているものであり、ストレスコーンにケーブル線心挿入後ある程度の時を経た後に初めて油状物が浸出するものではない。なお、前掲甲第四号証によれば、引用例には「通常ケーブル線心とストレスコーンとの間において空隙ができるのは、冒頭でも述べたように使用後ある程度時を経てからであり、一方上記ストレスコーンにおいてその表面に油状物が浸出して来るのも又ある程度の時を要する結果、上記油状物はケーブル線心とストレスコーンとの間に空隙ができる頃にうまく当該部分に充填されてコロナの発生を確実に防止することができるのである。」との記載(四欄一三行ないし二一行)のあることが認められるが、同記載は、前認定の引用例における「而してストレスコーン4のケーブル線心挿入孔内面にはストレスコーン4構成材料中の過剰の油状物14が表面浸出して油膜が形成されており、而もこの油膜はケーブル変体11への通電に伴なうストレスコーン4の加熱の作用によってその分子活動が更に活発化を呈し、その結果更に促進されて多量に出てくることから、仮りにヒートサイクルが作用してストレスコーン4とケーブル線心3との間に隙間が生じてもこの隙間は油状物14によって充填されることになり、従ってコロナ放電を防止することができる。」との記載と合わせ勘案すれば、引用例記載の考案において、ストレスコーンのケーブル線心挿入孔内面には、通電に伴うヒートサイクルが生じる以前から、ストレスコーン構成材料中の過剰の油状物が表面浸出して油膜が形成されてケープルとストレスコーン間の密接性が図られているものであるが、反に通電に伴うヒートサイクルにより、ケーブル線心とストレスコーンとの間に空隙が生じても、その頃にはストレスコーンが通電に伴う加熱によって油状物の浸出が促進され、より多量に浸出する油状物によって当該空隙がうまく充填されるという意味に理解するのが相当であり、同記載を理由にストレスコーンにケーブル線心挿入後ある程度の時を経た後に初めて油状物が浸出するものであると解することはできない。よって、この点に関する原告らの主張も採用できない。

更に、引用例記載の考案においても、コロナ放電発生防止のための手段が同時に防水性にも寄与することを期待し得るものであること、及びケーブル線心の挿入のための油状物による潤滑性の向上も当然に意図していることは前判示のとおりであって、この点においても本願考案と引用例記載の考案とが作用効果を異にするものであるとは認められない。

(五)  以上によれば、取消事由一における原告らの主張はいずれも理由がなく、審決が「本願考案と同じ電線接続等の技術分野において、ストレスコーンをゴムに対し五ないし一〇重量%の油を含有してなるゴム材料で形成し、このストレスコーンを本願考案と同じ静態構造部分に用いる手段として、右ストレスコーンのケーブル線心挿入孔にケーブルを挿入しこのケーブル上にストレスコーンのゴムに含まれている油を浸出させるようにすることは、前記引用例に記載のとおり公知であり、」と認定した点に原告ら主張のごとき誤認は認められない。

3  取消事由二に対する判断

油含有ゴムをシール等に用いることが本願出願前周知であったことこっいて当事者間に争いがないことは前記のとおりである。そして、引用例記載の考案も、本願考案と技術分野を異にするものではなく、また、引用例が本願考案と周知のものとの前記相違点の構成及び作用効果を開示ないし示唆するものであることは、取消事由一に対する判断として判示したところから明らかである。

したがって、本願考案の前記相違点の構成を採用することは、前記周知のコネクタ用の防水ゴム体に引用例記載の公知の技術手段及び油含有ゴムをシール等に用いる周知の技術的手段を適用することにより当業者が極めて容易になし得る事柄であり、本願考案の効果も、前記各周知のもの及び引用例の記載から当業者の予測できる程度のものであると認めることができる。

以上によれば、本願考案は、前記各周知のもの(周知のもの及び周知技術手段)及び引用例に記載のものに基づいて当業者が極めて容易に考案することができたものであると認めるのが相当であり、審決の認定判断に誤りはない。

原告らは、右技術手段は本願考案の属する技術分野においては必ずしも周知ではなく、右周知の技術手段を適用して本願考案の相違点の構成を想到することは困難である旨主張するが、成立に争いのない乙第七号証(「実用プラスチック用語辞典」・株式会社プラスチックス・エージ昭和四五年六月二〇日第二版発行)によれば、シーリング材は、隙間を詰めたり二物体を弱く接着するためのゴム様物質をいい、電気、車両、船舶、自動車、航空機、各種装置などの広い分野で使用されるものであることが認められ、このような広い分野に亙って使用される技術は各技術分野に共通的な性格の濃い汎用性ある技術として一般に転用を容易に想到し得るものであるといえるところ、本願考案の技術分野においても右技術を転用する妨げとなるような事情もみあたらないから、原告らの主張は理由がない。

4  以上によれば、原告らが審決の取消事由として主張するところはいずれも理由がなく、審決の認定判断は相当であって、これを取り消すべき違法は存在しない。

四  よって、原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 田中信義 裁判官 杉本正樹)

別紙一

〈省略〉

別紙二

〈省略〉

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